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思い その44「歴史という化け物に出会って沈黙した知性 小林秀雄」


歴史兄弟サイトの「テキトー雑学堂」、「歴史・地理 その32」で「戦争は 部分で語るものではなく 全体で語るべき絶対悪」ということを書きましたが、そこで言いたかったのは「戦争」という事象以前に、「歴史という化け物」についてです。戦争とは歴史の中で繰り返されます。歴史を勉強していれば戦争史を勉強しているような気になります。まさに「銀河英雄伝」のヤン・ウェンリーが言う通りです。戦争は歴史の中で起こり、その歴史というのは「何人にも制御不可能」であり、「偶然」と「必然」の中で動いていく化け物です。「偶然」とは、人が引き起こす数々のミス(判断ミス、アクシデント等々)、「必然」とは、人が持つ「欲」。その両者とも「制御不可能」であることは事実です。

「何故、戦争が起きるのか」など、いくつもの原因を形式的に突き止めることは可能でしょうが、「戦争」そのものの存在については一体何が語れるのでしょうか。なぜ、そのようなものがあり得る(起こり得る)のでしょうか。戦争を「部分・個別」で語れば議論百出どころではありません。無限の平行線が並ぶだけです。戦争を「歴史」の産物であるとすれば、人の営々たる歴史そのものを相手にしなければならなくなります。これは宇宙を相手にするのに等しく、まさに、蟷螂の斧を以って化け物を相手にする羽目となるでしょう。

個人的には歴史好きなので、そこに人の営みの玄妙さ、面白さ、おかしみを無責任に眺めるのは、趣味のレベルとして許される事でしょう。しかし、こと「戦争」という事象に突き当たる時、そこをどのように理解すればよいのか、まず、未だに分かりません。活劇的なものとして眺めれば作品性も出て来るのでしょうが、そこに事実としてある「人の血と肉」をどのように受け止めれば良いのか、困惑などの域は遥かに超えてしまいます。で、ある日新聞(朝日新聞朝刊8/24)の文化・文芸のコラムで、「今こそ小林秀雄」というタイトルを目にした時、そこに「制御できぬ歴史」という文字を発見し、何度もそのコラムを読み返しました。

小林秀雄が文学者として、その戦争責任を問われた存在であるというのは比較的よく知られた事だと思います。その要因となったのは「僕は無知だから反省などしない」という、一見、開き直りともいえる言葉にあるのでしょう。しかし、私自身は彼の「突きつけられた戦争責任」への沈黙こそが、「歴史という化け物」に出会った小林秀雄の偽らざる姿だと考えます。彼は、あの大戦に対して、「日本人としてのアイデンティティ」のようなものを感じながら、その敗北の時、反省などというものを拒絶して沈黙したのです。そして、この大戦が一部の者の無知や野心から起こったのか、それさえなければ起こらなかったのか、ということを彼は「無責任で安易な詮索」とし、それを「お目出度い歴史観」として、「僕は歴史の必然性というものをもっと恐ろしいものと考えている」とも述べています。

知識人たちの「安易な反省」などは、私自身も無意味と考えます。あの大戦から民主主義に転換したことを、単純に「反省の賜物・成果」とするのであれば、民主主義が正義なのか? あの大戦が日本国民の意志から惹き起こされた側面があるとすれば、それは悪なのか? 政治も主義も単にシステムとして見れば、そこに何の「位相」の変化もあり得ないのではないか。あるのは「戦争」が起こり、勝って、負けて、勝って、負けての繰り返し。制御できない歴史と云う化け物に翻弄され続ける人の営みがあるだけ、そういう景色が横たわっている。その景色とは「恐ろしさ」だと思います。未来も歴史であり、そこに夢など見ることが本当にできるのでしょうか。

小林秀雄をよく「二分立」で語る方がいますが、私はそうは思いません。小林秀雄は、「議論」の末に何か良いものが確実に現れるなどとは信じていない。その目はひたすら「本質」という、対立軸など存在しない、善も悪も、理も非もない世界を眺めつづけているように思います。その目が「歴史と云う化け物」を見つけた時、つまりはその産物である戦争に対しても、「沈黙」という姿勢を取らざるを得なかったのではないかと考えます。永遠に循環する議論。その中に参加することに、意味など見出せなかった。小林秀雄の著書「無常という事」の中に「歴史というものは、見れば見るほど動かし難い形と映ってくる」という言葉があります。

そこにある「恐ろしさ」を、もし、あらゆる者が共有できた時、歴史は「確実な破滅」か「確実な三すくみ的平穏」へと至れるように思います。人が「化け物」なのでは断じてなく、人の営みが作り上げる「歴史」こそが制御不可能な「化け物」であり続けるが故に、「戦争という宿痾」から人が逃れることなど、不可能。小林秀雄の沈黙はそうしたことを見抜いたうえでのことであると感じます。誠に、恐ろしい…。

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