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思い その12「100号のキャンバスに残る家族の時間…」


家族これは以前、契約社員で勤めていた会社の社長から聞いた話です。その会社は大手企業グループの関連会社で、社長は本社から来られた方です。本社からの落下傘社員にありがちな上から目線での横柄なタイプではなく、ちょっと頑固ではありましたが気さくな方でした。契約の身分という気軽さもあり、また、たまたま出身大学が同じであったということもあって、歳はけっこう離れていましたけど、昼食や夜の一杯にサシでお付き合いしてました。余談ですが、会社の社長というのは昼飯を食うにしても誰と行くかで気を使うものです。気疲れするのでしょうねえ、そういう事は。ですから、私のようなニュートラルな立場の人間は気を使う必要がないのか、よく昼食に誘われました。

それはさておき、その昼食時に聞いた話なのですが、聞き終えた時、普段は余計な事をよく喋る私も、何と言って良いのか言葉に迷いました。よくある事といえばよくある事で、決して珍しい話ではなかったのですが、なにやら妙にもの哀しくなるというか…。

その社長が会社に入ってけっこうな年数が経った時、高校時代の同級生から連絡があったそうです。何でも、高校時代の先生が亡くなられたとの事で、その先生は美術の先生だったそうです。同級生の方は確か美術部でその先生の指導を受けられていたように話された記憶があります。先生への哀悼の意を込めて、生前に描かれていた絵で内々の個展を開くから来てくれないかというお誘いだったようです。誘われた社長自身は美術部ではなかったのですが、当然、授業を受けた先生であり、仲の良かった同級生の誘いですから付き合う事にしたそうです。

会場には昔懐かしい面々が集まり、同窓会のようになり、皆でそれぞれに気に入った絵を引き取るという事になったようです。形見ですかね。社長も絵心のある人だったので、これはいいなという絵があったようですが、遠慮して、故人と付き合いの深かった人から先に選んで絵を引き取って行くのを待っていたようです。生前、生徒に人気のあった先生らしく、絵は殆どが引き取られていったそうです。で、最後に100号位の大作一点が残ったのですが、さすがに100号ともなると引き取り手が無かったのか、同級生から「お前が引き取らないか?」と聞かれたそうで、ちょっと迷ったそうです。なんせ、100号ですから…。

そのキャンバスに描かれていたのは、亡くなられた先生のご家族が集まられている絵だったそうです。奥様や、数人の息子さん、そしてその嫁さんやお孫さんたち。微笑ましく皆笑って、その中央に先生が描かれていました。社長は「ご家族の絵だから、これはそちらで飾ってもらうべきだろう」と同級生に言うと、その同級生の方が答えて曰く…。

「この絵、先生のご家族を描かれたものなんだけど…」、困ったような顔で言葉を続けられ、「実は、この絵の中に描かれた人、全員がもう生きていないんだ」とか。それを聞いて社長は驚き、マジマジと絵を見たそうです。「…。でも、みんなまだ若いし、何で…」。同級生の方が言うには病気や事故で皆、亡くなられたそうです。

食事をしながら社長が言います。「確かにあり得ない事は無いけど、堪らないよな…、絵の中の全員がもう死んでいるなんて」。私、どう答えて良いものか…。「そんな絵、貰えないよ」。結局、親戚の誰かにその絵は引き取ってもらったようです。

話としては以上です。私はその絵を見てはいません。しかし、話を聞いて何となく想像はできます。家族そろっての肖像ですから、おそらくは、その先生が一番幸せだった「時」がその絵の中に描かれている訳です。誰もいなくなって、その絵だけが「幸せな時、時間」を残しているという事です。私は、その先生が亡くなった時、一緒に燃やしてあげれば良かったのにと思いました。ちなみに鼻白むような事を書きますが、昔は故人の思い出の品を一緒に燃やすという事は特別な事ではなく、私も経験しています。が、今は、電気炉で焼くため、そうしたものを一緒にお棺に入れる事を禁止している所が多いようです。燃焼効率と、事故を防ぐためだそうですけど…。

私は自分や家族を写真に取ったり、映像に残すことが好きではありません。親が死んだ時、家にあった家族の写真やアルバムは一緒に燃やすか、全て廃棄しました。そういうものは「記憶」の中に残せばいいと思うからです。死んでしまった者は記憶の中で薄れていくべきもので、それが写真や絵で残ってしまえば、何時まで経っても忘れる事ができません。

あの絵には、家族の「時間」だけが切り取られて残っています。もう誰もいないのに。この話には、何とも、もの哀しい気分にさせられました。

大きなお世話覚悟ですけど、よく運動会などでデジカメやムービーカメラを一時も離さず、それで子供の映像を撮り続けている親御さんがズラリと並んでいる景色を見ますが、できればその姿は肉眼で見ましょうよ。ファインダー越しではなく。今しか見られないものは、今見られればそれで良いように思います。

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