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変 その48「文芸に於いて作者と読者は一対一の関係 解釈は自由」


さようならあらゆる言語には「文法」なるものがあります。その中で「膠着語」と云われる日本語は、語尾の変化(見ない、見る、見れば~)、助詞を使って言葉を紡ぎ合わせ、ある意味で「危うい」フレーズを巧みに操る事が出来る言葉であると思います。

「危うい」といったのは、「あやふや」ともなり得るからです。「膠着語」ではあってもその膠着度はそれほど高くなく、それぞれの言葉が「文脈」によって如何様にも解釈できる場合が多い。また、言葉が単独で現れた時、その前後に隠れているフレーズを想像させるため、どのようにでも取れる言葉になりやすい。

例えば、単純すぎる例ですが、「けっこう」という言葉が単独で出た場合、好意にも拒絶にもただの強調にも取れます。それこそ、流れの中で感じるものだと思います。で、「出た」と言った場合は、多くの人が同じような解釈をするのではないかと思いますが。何が、と云えば、あの怖いやつですよ…。主語を素っ飛ばしても成立する(成立してしまう)のが日本語です。「行ってきます」って言った人に「誰が?」なんて聞かないでしょ。「ソレがアレして」なんて表現があるのも、日本語だけではないでしょうか(多分)。

その「危うさ」を持った日本語で語られる日本文学は、裏を返せば、極めて多元的な世界を持ち、百人の読者がいれば、百通りの「響き方」をする表現で彩られたものであると思います。故に、解釈は読者の自由。

つまり、多元的な世界を持った作品であるが故に、作者と読者は常に「一対一」の関係の中で、極論ですが、ある意味「共に作品を作っている」ともいえるのではないでしょうか。作者と読者の共同作業、そして、時に起こる「角逐」の中で作品は光を放ち得るものだと考えます。

と、学者でもないのに偉そうな事を冗長に書いてしまいましたが、本題はこれから。ある日の某新聞の記事を見て「またかよ…」とゲンナリとしてしまったのですが、その時は因縁を付けるつもりも無く、不愉快になっただけですけど、どうにもその不愉快がいまだに収まりません。で、書きます。

その記事は川端康成の「伊豆の踊子」のラストシーンについて書かれていたものですが、その対象となったフレーズを引用します。主人公と踊り子との別れの場面です。

「私が縄梯子に捉まろうとして振り返った時、さよならを言おうとしたが、…」という文で、記事を書いた某大学名誉教授が「この一文で、さよならを言おうとしたのは誰か?」と問うています。そして、「さよなら」を言おうとするのは能動的な意思、一人称の文体ではそれが分かるのは主人公であるから、答えは「私」という素朴な思い込みから、そう答える人(多分、学生?)が増えている。と述べ、「私が」とあるので、その光景は「私」から見たものであり、それが「私」の行為であるなら「私は」と書くはず。故に「さよならを言おうとした」のが踊り子であるのは文脈からも明らか、…とか。

あのですね、文法なるものをないがしろにするつもりはありませんが、文法で作品を読むなんて、何と味気ないことか…。

私の答えは簡単。「さよならを言おうとした」のは「両方」です。その根拠は二つ。ひとつは、この場面は「別れ」の心象風景を含みます。その中で当然「さよなら」という別れの言葉は、「私」と「踊り子」の両者が共有するものであるからです。もうひとつは、「文脈」なんて関係ないから。そこは「あやふや」でいいのです。「さよなら」という言葉を中心にして、様々な思いがその周辺に飛び通っているというシーンです。それは読むものが「感じる」ことで、そこに「解釈」は無用。「さよなら」に感じるものはグラデーションの如く、人ぞれぞれ。

これを読んでいて、正岡子規の「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」の句を、「これは文章としておかしい」と言い「柿食うておれば鐘鳴る法隆寺」が正しいと評論した某アホ(失礼)を思い出します。あなたの表現では、この句は百年生き残れませんよ。

作者と読者の関係は一対一。互いに「感じる」ものが綾なす世界があってこそ、初めて文芸なるものが存在するのです。「解釈」が必要なら、「実用書」でも読んで、どうぞベラベラと薀蓄でも楽しんでください。

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